前回のブログから月日は流れて早4ヶ月。今日はもう11月5日です。あと少しで今年も終わりです。ああ、月日の流れるのは何と早いことか・・・
前回のブログで紹介させて頂いた不動産投資のお話から、少しだけ趣を変えて、これからしばらく私が過去この業界で経験した奇妙なお話をご紹介したいと思います。
第一話。「骨」
これは、以前私が福井県で某賃貸住宅建築会社の営業課長をやっていた時のお話しです。当時、私が担当していた部下の社員が、アパート建築の契約を獲りました。まだ入社して間もない担当者の初契約でもあり、私も当時の支店長も大喜びで担当者を褒め称えました。図面も出来上がり、確認申請も下り、いよいよ着工の運びとなったある日の事です。その日、私は支店長を車に乗せ銀行訪問のため外回りをしていました。そこに一本の電話が支店長の携帯にかかって来たのです。
「はい、もしもし。・・・え!分かった。すぐ行きます。」そう言って電話を切った支店長は、私にある現場へ向かうよう指示をしました。その現場は、入社間もない担当者が初契約を挙げた場所でした。「どうしたんですか?」私の問い掛けにしばし黙り込んだ支店長が、おもむろに口を開きました。「骨が、骨が出たんだと・・・」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」なんか、良く覚えていませんが、多分こんな反応だったと思います。直ぐに銀行訪問の予定を変更して、その現場へと向かいました。場所は、市街地から少し離れた農村地帯が広がる畑の一角でした。
周辺にガードフェンスが張りめぐらされ、いかにもこれから工事が始まるという雰囲気が出来上がっていました。近くで車を止め、フェンスの中に入ると、数人の工事関係者と思しき人達が一台のユンボを囲み、今まさに掘り上がったであろう穴の中を見つめています。
支店長と二人でその輪の中に入ると、一人の男が我々の姿を見付け無言で穴の中の一点を指さしました。その男の指した先に目をやると、およそ3m四方に少し深く掘られた穴の中央に、ぼんやり白く浮かび上がる数本の細長い物体が見えました。
「骨だね・・・」ボソッと支店長が呟きました。「ええ、たぶん」と、隣のヘルメットの男。
「動物?」と、私。「いや、骨がそこそこ太いので・・・」と、ヘルメットの男。
そこからは誰も喋らなくなりました。
良く見るとバケットを上げたまま止まっているユンボの運転席には、オペレーターらしきヘルメット姿のオジサンが、ジッとこちらの状況を見守っています。支店長を見ると、白い「それ」を見つめて腕組みをしたまま無言で固まっていました。
きっと、支店長の頭の中では、(マズい・・・この状況では工事がストップしてしまう。人の骨ともなれば、誰のものか確認作業が生じる→工事ストップ。遺跡なり歴史的な物の場合だと→完全に工事ストップ。仮に埋葬したものとしても移設するまで→やはり工事ストップ。ましてや殺人事件だとしたら→延々に工事ストップ!)と、様々な葛藤があったに違いありません。
しばしの沈黙の後、意を決したように支店長が口を開きました。「動物だ・・・ありゃ動物の骨だな」と、いきなり「動物の骨論」を主張し始めました。唖然とする周囲を牽制するかのように「犬だよな!犬!」と、完全に工事業者を暗に脅しています。「あああ、ええ・・・」と、その勢いに飲まれて頷くヘルメットの男。その姿を見てさらに勢いに乗る支店長は、クルリときびすを返すと、ユンボの席に座ってこちらの動きをジッと見つめていた男に向かって「ペンペンしなさい!」と叫ぶと、自らの手を水平に合せて「ペンペン」とジェスチャーで伝えました。
何とも重苦しい空気の中、支店長にまさかの指示を受けたユンボのオペレーターは、外にいたヘルメット男の方に視線を向けました。そして、目が合ったヘルメット男の小さな頷きに意を決して、ユンボのバケットを骨らしき物体目掛け、2度3度と叩き付けました。それからゆっくりとバケットを上げると、先ほどの白い棒状の物体は、見るも無残に小さな欠片になってしまっていました。
その春、工事は無事に完了し、ファミリー向けのきれいなアパートが立ち上がりました。入居者も直ぐに決まり、もうあの事を語る者はいません。あれは、本当に動物の骨だったのでしょうか・・・今では誰にも分かりません。
不動産企画部 山口